' . "\n"; ?> 高き者、逃げざれば。 | :::LitSwD:::

 ああ、またか。諦めに似た気持ちで息を吐く。デッキの調整に忙しくベッドに入ったのは深夜を過ぎてからで、空が白み始めようとしていた頃だ。夜中でなければ大丈夫だろうという考えは甘かったらしい。いつものように白いライダースーツに身を包んで、あの忌々しい地下神殿に立っている。
 祭壇前にいるのはしもべではなく、今はジャックのエクストラデッキに眠るドラゴンであった。
「また貴様か。いい加減に諦めるのだな」
 澱んだ金色の目が少しだけ歪む。込められた嘲笑を鼻で笑うが、背筋には汗が伝っていた。
 かのドラゴンはジャックのいわばしもべだ。だが最強と徒される悪魔はまだ完全に屈服するには至っていない。夢の中でジャックを何度も、何度も堕とそうとしてくる。
「はっ。今日は何をするというのだ?この俺に」
 そこに、一筋の期待がないといえば、嘘になる。だが、その事実に目を逸らさねば、立つことは出来ない。夢だと断じるのは簡単だが、夢のなかで敗けて胸をはることなどジャックには出来なかった。
 愚かだと分かっている。これがただの夢ではないという証拠はない。同じように、ただの夢だという証拠もない。ならば、ジャックは選ぶしかないのだ。己の誇りと力を汚すことのないように。真に王者であり、真に貴きものとなるためには、たとえどこであろうと膝を折ることは赦されないのだ。
 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン。孤高の慈悲と破壊の悪意が混ぜ合わさった金色の瞳を持ち、その力に相応しい堂々たる体躯を有す龍。ジャックの魂であるレッド・デーモンズ・ドラゴンはその核として、地縛神たるスカーレッド・ノヴァを抑えている。悪意の強い金の瞳の奥から彼はいつもジャックを見て、自らの無力をジャックに詫びる。そのレッド・デーモンズ・ドラゴンが悲しげに哭くのを感じ、胸を抑えようと、した。
「何……!」
 足の指先まで、どこも動かない。自分の身体ではないようだ。鋭い鉤爪が伸びて、ライダースーツとインナーだけを器用に破いていく。じりじりとした恐怖と布一枚隔てた感触に背中がざわめいた。
 素知らぬ顔でドラゴンは口淫を始める。一方的に与えられる快楽は屈辱と何一つ変わらない。
「畜生……貴様、などに……はァ、ッ!」
 ざらりと舌が陰茎を舐め上げていく。火のように熱いそれは否応なくジャックの熱を上げた。あっという間に立ち上がったそこに、鉤爪があてられる。しっかりとジャックを見るドラゴンが楽しそうに鉤爪を動かした。そして虚空に円を描く。冷たい感触に声が漏れそうになるが奥歯を噛み締めた。
 鉤爪の動きに呼応して、見る間に金色の光が現れ陰茎に嵌る。ドラゴンの意図を理解して、ジャックは首を振った。これ以上、どう辱めようというのだろうか。
「そんな、ものでこの俺を縛れると……ッ、思うな!」
 ちょうど亀頭の下あたりに取り付けられた鉄製のリングを見てドラゴンは確かに嗤った。しかしジャックはそれどころではない。膨らみきった陰茎が締め付けられて痛みが走る。
「ひっ……!」
 そのまま後口を舌で愛撫され、身悶えた。熱い舌先で入り口を何度も嘗め回す。少しだけ入れてはくるりと内壁を撫でてまた入り口に戻り、再度、しかし僅かに深く入り込む。その度に快楽に震える陰茎が痛みを齎すのだ。舌先が自由に出入りするようになる頃には、ジャックは半分以上意識が飛んでいた。何も言葉に出来ず、ただ荒い息を吐くだけである。だが高貴な二対の紫玉は光を失うことはなかった。
 その様に、満足したように舌を抜いたドラゴンは少しばかり小さくなったようだ。祭壇に引き寄せられたジャックは彼が自分より一回り程度大きい体長になったのを見て、一瞬だけ絶望を見せる。だが、次の瞬間には強い光が瞳に戻った。
 何が起きるかは、もう分かっている。軽々と自分を持ち上げていきり立つ股間にあてがったスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンは、明確にその口の端を歪ませ、そして。
 枷の嵌ったままの身体を一気に貫いた。
「ぐあッ――――――!」
 痛みと紙一重の強烈な快感に白目を剥き、悲鳴の先すら赦されず意識を手放した。悪魔と同じ瞳から労るようにジャックを見るレッド・デーモンズ・ドラゴンにただの一言もかけられなかったことが、苦しかった。

 最悪の寝覚めである。湿った下着に舌打ちをすると、ベッドから起き上がる。
 窓の向こうの太陽はいまだ昇りきっていない。ベッド横のデジタル時計はまだ午前中の時間を示していた。寝覚めが悪いどころかまともに寝てもいない。小さな声で悪態を吐く。同時に、ドアがガチャリと開いた。
「ジャック……」
「――――遊星、か」
 マグカップを手に持った幼馴染が顔を覗かせていた。先ほどの悪態を聞いていたのか、表情は固い。これもまた、最悪である。妙な所で敏い彼には気付かれてしまうだろう。案の定、近付いてきた遊星の瞳にも微かな熱が垣間見えた。
「うなされていたぞ……?」
「大丈夫、だ」
 夢である、それは確かなことだが、ジャックの体内を蝕む熱は収まる気配を見せない。悪夢は悪夢でも淫夢だ。それも、明らかな悪意に彩られた極上の淫夢なのだ。最も信頼する存在の目の前で、いい様に弄ばれ、体を女のように貫かれ、自尊心を削られるような屈辱から快楽は湧いてくる。知ってしまった身体は心を裏切っていく。
 今この瞬間の己の顔を映すことがなくて良かったとジャックは思った。きっと顔は浅ましい色に染まっているだろう。先を越して、想いよりも速く、欲望が全てを決めていく。
 カップがテーブルの上に置かれた。
「本当に、か?」
「その手をどけろ」
 使い込まれた指が頬に触れる。そこからじわじわと熱が高まっていくようで、言葉とは裏腹に白い手を重ねた。瞼を閉じて、熱い息を吐く。
「わかった」
 ジャックが見えていない間にうっそりと笑んだ幼馴染のその深い藍色の瞳が、窓からさし込む朝の光に金色に煌めいたのは、果たして、果たして知りえない。


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2011/11/08 : 初出