' . "\n"; ?> Love,Berry,Sugar...and Love! | :::LitSwD:::

 大きな紅の瞳に、涙が溜まっている。それだけで腰が重くなるような気がして、凌牙は熱い息を吐いた。夏の名残が肌の上を滑って落ちる。遊馬に掴まれた右腕が痛い。だが、その痛みがまた、脳を痺れさせた。
 何かを言いかけた唇を塞ぐと柔らかな舌を絡ませる。一つ下とは思えない幼さは、どこもかしこも柔らかかった。自分の骨張った体とは大違いである。
「シャー……ク」
「ゆうま」
 先ほどまで、遊馬の宿題を見ていたはずだ。数学のドリルがテーブルの上に放置されている。手が触れて、瞳がぶつかって、そこに一つの熱を見てしまった、それがいけない。求められていると感じてしまった途端に、体が作り変わってしまったのだ。
 助けを求めるように遊馬の唇に縋りつく自分が浅ましいと思う。それでも遊馬が抵抗しないのを良い事に甘えている。愛を返してくれていなくても拒否されないだけで良かった。ちゅ、と音を立てて顔を離す。
「悪い」
「……!い、いやシャークさ」
 いつも、キスで終わりだ。これ以上はさすがに甘えるの域を超えてしまう。掴んだ手をそっと離させると凌牙はシャープペンシルを取った。
「おら、早く終わらせるぞ」
「シャーク、話」
「終わらせてから――」
 ぐい、と腕を引っ張られる。斜めになった眉の下、瞳が爛と輝いていた。顔は取り繕えているだろうか。恐らく、無理だろう。遊馬はもう片方の手で首にかけていたペンダントを取ると、鞄に仕舞う。
「そういう顔、するくせにさ」
「ゆう、ま」
 手を離されて、そのまま肩を押された。ラグの上に倒れこんだ体に覆いかぶさる少年は、不満気に口を曲げている。
「オレが何も知らないってバカにしてるんだろ」
「ちが……!」
「知らないし、ガキだけど。……シャーク」
 震える体の中が、期待で満ちていく。頬に触れた遊馬の手は子供の体温と柔らかさだ。だが、明らかに熱を知る動きで首筋まで撫でていく。
 近付く紅の瞳は確かに凌牙の望みを知って、叶えようとしていた。瞼を閉じれば暖かな唇が触れる。
「好きじゃなきゃさすがのオレもあんなキスしないし」
 制服のスラックスの中に手を突っ込まれ、思わず目を開く。そこにあった笑顔は、咲くように華やかな、太陽の笑顔だった。
「好きだよ、オレ、シャークのこと」
 ぞくぞくと背筋が波打った。同時に陰茎をゆっくりと扱かれる。先ほどのキスで十分に硬くなっていたそこは、柔らかな手の感触を喜んで受け入れた。
「ま、待て」
「なんだよ?」
 首を傾げた遊馬にくらくらとして、言葉にする前に彼のスラックスに手をかけた。
「不公平なのは、嫌だ」
 にこりと笑った遊馬に胸が鼓動を早くした。

 お互いに荒い呼吸をしながら唇をあわせる。体が溶けてしまったように気持ちが良くて、凌牙はただ喘ぐだけしかできない。手の中の遊馬のものがびくびくと震えて限界が近そうだが、自分も同じ事である。
「ひっ……、あっ」
「しゃーく、も、そんなこえ、出すんだ」
「うっせ――あ、ああッ」
 拙い、とはいえ同じ男だ。どことなく感覚は分かるのだろう。追い上げられて凌牙は体を震わせて射精する。一人で彼のことを想像しながらしたことはあったが、そんなのは児戯にも等しいと思えるほどだった。
 触れられているという満足感と、遊馬が自分を気にかけているという充足感がたまらない。ふわふわと暖かな胸に同時に達したらしい遊馬の頭が乗せられた。
「あちー」
「……そうだな」
「しゃーくー、風呂入りたいー」
「……そうだな」
「お前なに同じ事ばっか――」
 顔を上げた遊馬が目を見開く。そして照れくさそうに笑うと、体を持ち上げた。
「シャーク!」
「なんだよ」
「オレ、シャークのこと大好きだから」
 果たして、凌牙は自分の頬が緩んでいたことを知っていたのだろうか。しかしもう、それを気にする必要はないのかもしれない。
「……ああ」
 救い上げられた恋心ごと、それは捧げられているのだから。
「好きだぜ」



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2011/11/02 : 初出