' . "\n"; ?> 時計仕掛けのブルーローズ2 | :::LitSwD:::

 広いガレージに水音が響く。昼間のはずだがカーテンは閉められ薄暗い。まだ生きているGPSはここが旧BADエリアの片隅だと教えていた。虜である自分には関係のないことだ、そもそも外に出る気もない。
「んぐ……っ、あっ」
 上気した頬と蕩けた眼差しを注ぐ遊星は、跪くジャックの髪に手を置いた。頭皮部分のセンサーが彼の手のひらの感触をデータ化し、保存する。無意識の内に先回のデータとの比較作業を開始すると、ジャックは赤い瞳を眇めた。手の荒れがひどくなっている。手袋で誤魔化してでもいるのだろうが、ささくれた指先はそんなもので誤魔化せる域を超えていた。
 口腔内でひくひくと痙攣しているものはデータより少し早い絶頂を迎えそうだ。苛立ち紛れに尿道に舌先を埋めると、息の詰まったような声を上げて簡単に達した。
「…………濃いな」
「じゃっくが……上手いから……どこで覚えてくるんだ」
 寄り掛かっていたソファの背から崩れ落ちると、遊星は抱きしめるようにジャックの肩に凭れかかる。口の中の粘つく液体もデータに取ると水と一緒に飲み込んだ。
「ネットの履歴くらい消しておけ。動画から動作をトレースしただけだ」
「…………ああつまり、次して欲しいことを残しておけば」
「馬鹿が。それより疲れている状態で来るなと言っているだろう」
 瞼が半分以上落ちている。彼がここに来る時は大抵、ひどい困憊状態にある。今日のように行為をねだってから寝ることも多いが、到着した瞬間に寝てしまうこともあった。その度にジャックは彼の青い寝顔を見るはめになるのだ。
 じくじくとした熱を持つ中枢回路が痛むのは錯覚だ。必要と有らば心電図までモニター出来るというのに眉を顰めて遊星の起床を待つのも、寝起きに伸ばされた手に彼が自分を必要としていることを確認して安堵するのも、本来ならば有り得ない錯覚なのだ。自身の状況を客観的に分析したならばおそらく羞恥で回路がショートしてしまうだろう。あの日、彼の懇願を拒めなかった自分が全部悪いとは言え、やはり遊星に責任を転嫁したくなる。
「下半身丸出しのまま寝るんじゃない」
「ああ……」
「それに寝るんだったら毛布でも持って来い」
「分かった……今度買ってくる……」
 ゆっくりと動く子供のような仕草に肩をすくめる。着衣を直しソファに横たわった遊星は、気の抜けた顔で手招きした。
「じゃっく」
「なんだ」
「一緒に寝ろ」
 命令形の言葉だが、その瞳は揺れているのを知っていた。
 冷静に見せかけた言葉がほんの少しだけ上擦って、瞳孔も少しだけ開いている。自分で救い上げたこの機械になぜ彼はそんな不安を抱くのだろうか。なにより、この機械の身体をなぜ彼は欲しているのだろうか。また中枢回路が痛む。体温などない、造り物の身体をそれでも抱き締めて安心したように微笑む、その姿は何を意味しているのだろうか。
 問えば解は返ってくる。それが遊星の世界での解であり、ジャックの世界では違う解であろうとも。


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2012/01/08 : アップ