' . "\n"; ?> オレアンダーの籠 | :::LitSwD:::

 愛を注ぐ器は、何であっても良い。自分が愛を注ぐことが出来れば、それでいいからだ。
 むしろ人でないほうが都合がいい。人間はいつか壊れてしまう。壊れてしまっても直すことの出来ない人間より、直すことも新たに造ることもできるほうが良いのではないのだろうか。寝静まった家のガレージで遊星はグローブを外した。
 仲間のことは、信じている。それぞれに愛情と呼べるものも抱いている。ただそれは、愛というよりも自動的な感情だ。心に落ちてきた仲間はすでにそこから出すことなどできない。素手で胸を押さえる。じくじくと、痛むのだ。仲間達とのいつか来る別れや、別れはしなくとも会えなくなることを考えるたびに、胸は望まない傷を作り出す。
 鎮座する三台のD・ホイールの中、美しい円環を模した白いマシン。それは神を持たない遊星の、神となったモノだ。
 女神を愛しても見返りは決してない。だからこそ逆に、存分に愛を注げる。そこにあるのは、無限に口を開いた何もかもを飲み込み消し去る縦穴だけだ。自分の愛で溢れかえることも、愛を厭われることもない。その事実に、遊星は安堵する。
「何をしている」
 いつものように、ホイール・オブ・フォーチュンの前に座り込んでいただけだ。茫洋と見上げると、ライダースーツに身を包んだ幼馴染が立っていた。金色の髪が月光を反射してきらきらと光っている。その姿はいつもの彼とは違っているようで、遊星は回らない頭のまま仕草を追う。
「どうした」
「どこ、いくんだ」
「眠れないから少し走ろうかと思ってな。お前も来るか?」
 よく見知っている。長い間一緒にいた相手だ。彼を追って自分は此処に来た。だが、違う人だ、いや。
 違う、神だ。
 怪訝そうに遊星を見下ろす姿。それは奈落の縁に立つ、女神の遣い。
「ジャック」
「ん?」
「頼みがある」
 そのまま運命の輪を回して、重い心ごと全てを断罪して、欲しかった。


続くんだろうか。
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2012/01/19 : アップ